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番外編 人質
そのときスマホがブルブルと震えた。「誰かに付けられてないだろうな」電話を掛けてきた相手に念を押して何度か確認すると、ベッドから立ち上がり警戒しながらドアを少しだけ開けた。
「兄貴、頼まれていたものです」
「悪いな。引き続き見張りを頼む」
差し出された紙袋だけ受け取るとすぐにドアを閉めた。
「メニューは色々あるんだがどうも妊婦向きじゃないような気がして。口に合うといいんだが」
紙袋をぽんと投げるように渡された。
中を覗くと桜色の布に丁寧に包まれたお弁当が入っていた。驚いて鳥飼さんを見上げると、照れ臭そうに目を逸らしわざと咳払いをしていた。
「腹減ってんだろ。早く食べろ」
急かされてお弁当を紙袋から取り出し膝の上に乗せた。布を左右に開くと割烹壱と書かれた漆塗りの丸形の二段のお重が姿を現した。そぉーと蓋を開けると、舞茸ご飯や赤飯、煮物や焼き物など色とりどりのおかずがこれでもかとぎゅうぎゅうに詰められていた。
「いちいち驚くことでもあるまいに」
今まで見たこともないくらい豪華なお弁当を前に呆気に取られていたら、鳥飼さんにクスクスと苦笑いされた。
見られていることに緊張してご飯が殆ど喉を通らなかった。逃げるようにバスルームに駆け込んだのはいいけど、洗面所から見た浴室は一面ガラス張りになっていて猫足の丸みの帯びたかわいらしいバスタブが丸見えになっていた。お風呂に入っているときにもし鳥飼さんが入ってきたら……恥ずかしくて身の置き場に困るだけじゃない。 鳥飼さんが豹変するとも限らないし。
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