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番外編 人質

「九鬼睦を昇龍会(そっち)で預かって欲しい。俺はどうなっても構わない」 『なかなかいい度胸だな』 福井さんが豪快に笑いだした。 『九条に聞いたらなかなかのじゃじゃ馬だって聞いたぞ。本当なら見せしめに殺されてもおかしくないのにな、九条と裕貴に感謝しろ。鳥飼、一度しか言わないからよく聞け。明朝八時に昇龍会の事務所に来い。未知は今すぐ解放しろ、いいな』 福井さんの方から一方的に電話が切れ、同時にドアの方から物凄い音が聞こえてきて。 ドタン!と片方の足でドアを蹴破り姿を現したのはーー 【………嘘、でしょう】 ついさっき鳥飼さんに紙袋を渡した男の首根っこを引き摺りながら姿を現したのは僕が一番会いたかった人だった。 【何で?どうしてここにいるのが分かったの?】 嬉しさよりも驚きの方が大きくて固まってしまった。 「離れていても常に一緒だ、そう言ったはずだろ」 にっこりといつもと何ら変わらない優しい笑顔を見せてくれた。 「大事な妻を迎えにきただけだ。今更お前と争う気はない。返してもらおうか?」 男らしい精悍な眼差しで鳥飼さんをじっと見据える彼。いつもの彼なら、僕が彼以外の男性と一緒にいるだけでも焼きもちを妬いて暴走するのに。

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