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番外編 人質
「もう一度言う。妻を返してくれ」
首根っこを掴んでいた男を床に放り投げる彼。
「福井と約束しただろ」
鳥飼さんをじろりと睨み付けながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「お前に何が分かる」
吐き捨てるように叫ぶと、隠し持っていた拳銃をこめかみに突き付けられた。
「龍一家の次男坊としてなに不自由なく育ったお前には俺たちの苦労は知るよしもないだろう。本妻らに愛人の子として疎んじられ虐げられてきた睦のことなんて……睦さえ生き残れれば、先代が命をかけて守り続けてきた九鬼総業は未来永劫続くことになる」
呻き声を上げ素早い動作で僕を羽交い締めにした。鳥飼さんは死ぬ気だ。僕を巻き添えにして……
「お前には未知は撃てない」
彼はそれでも冷静だった。
「黙れ!」
「なぁ鳥飼、俺も睦と同じで、愛人の子として、本妻や兄に疎んじられ、酷い仕打ちをされてきた。魑魅魍魎どもが蠢く九鬼総業で、睦をずっと一人で守ってきたお前の気持ちはよく分かる。だがな、無関係な未知を巻き込むことはないだろう」
諭すようにゆっくりとした口調で語り掛ける彼。
「福井や秦さんはそっちの若頭補佐や本部長とは違う。不本意かも知れないが敵の軍門に降り、睦と生き直したらどうだ」
彼の言葉にハッとし引き金から静かに指を離す鳥飼さん。腕の力を緩めてくれた。
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