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番外編 二人の幸せは僕と彼の幸せでもある

「何でこういうときに限って名前で呼ぶかな、今まで一度も呼んだことないのに」 咄嗟に逃げようとした和泉さんの手首を掴み引き戻すと、片方の手を差し出し傷が残る頬を愛おしそうに撫でた。 「俺は未知みたく可愛くない。四十近いおっさんだ。胸だってないし、子供だって産めない。俺が勝手に好きになっただけで、無理して好きにならなくていいのに」 和泉さんが目の縁に涙を溜めぶんぶんと首を横に振った。 「皆が言うように、俺は今まで人を好きになったことはない。組を守るのに必死だったからな。直矢に・・・・十六のガキに言われたよ。遥と一緒になれないなら死んだ方がましだ。ひとおもいに一緒に殺してくれって。それで目が覚めた。七海、俺に恋ってものがどういうものか教えてくれないか?」 「鷲崎さん・・・・」 ハッとし顔を上げる和泉さん。驚きすぎて声が上擦っていた。 「返事は?俺は待たされるのが嫌いだ。さっさと答えろ」 返事を急かされ、耳まで真っ赤にし目を伏せる和泉さん。恥ずかしそうにコクリと小さく頷いた。 「未知悪いが、七海が逃げないように見張っててくれるか。九鬼と決着をつけてくる」 鷲崎さんが、森崎!と名を呼ぶと、長身の男性が静かに姿を現した。 スッと立ち上がると、男性を従え広間へと向かった。 「相変わらず忙しい人」 手を伸ばし上着を拾い上げると、大事そうに両腕で抱き締めた。 「本当に俺でいいのかな?」 作り笑いを浮かべるとポツリと本音を漏らした。 「男に二言はない」 廊下の隅に控えていた颯人さんが静かに口を開いた。 どのくらい時間が過ぎただろうか。 厳しい表情を浮かべ、鷲崎さんが男性と戻ってきた。 「たく、あの狸親父には参った」 腰を下ろすなり肩で大きくため息をついていた。 「あ、あの、鷲崎さん………」 刺激しないように、おっかなびっくり声を掛ける和泉さん。 「ん?」 「いえ何でもないではす」 目が合い慌てて目を逸らした。 それが気に入らなかったみたいで、鷲崎さんは眉をひそめ、和泉さんを憮然として睨み付けた。

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