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番外編 二人の幸せは僕と彼の幸せでもある

「おいお前ら未知を巻き込まないでくれ」 彼が慌てて迎えに来てくれた。 廊下を並んで歩いていたら彼が急に立ち止まり、鰯雲が悠然と流れる茜色に染まった空を見上げた。 そして何を思ったのか、おもむろに手を掲げ、親指と人差し指で半分の輪っかを作った。 「ほら未知も」 促され同じようにすると、互いの指を合わせ、人差し指の爪先を中に少しだけ凹ませるとハートの形ができた。 「一太に言われたんだ。僕のパパになってくれてありがとうって。僕を置いてママとどこか遠いところに行っちゃうんじゃないか、いらないって言われるんじゃないか、すごく不安だったみたいだ」 まさか一太がそんなことを言うなんて……予想もしていなかったから驚いた。 「一太はちゃんと覚えていたよ。俺が未知たちに出会った日のこと。忘れないように絵に描いて大事にしまっていた」 片方の手でスマホを取り出すと画面を見せてくれた。 「千里が片付けをしていたら偶然に見つけた。一太は不思議な子だ。3年後の未来が見えていたんだから」 画用紙いっぱいに描かれてあった絵を見た瞬間、涙が堰をきったかのように溢れ出た。 真ん中にぐるぐると描いた小さい丸が5つ。両脇には更に大きく描いた丸が2つ。 「大きい丸は俺と未知だろうな。小さい丸は一太と遥香とベビハルたちかな。千里がな、これを見てもしかしたら再来年にはもう一人家族が増えるかも知れないって。俺も一家の長として、菱沼組の組長として気合い入れて頑張らないとな」 彼が機嫌良く笑っていた。まだこの子達がお腹にいるのに、五人目って………気が早すぎるから!もう遥琉さんのエッチ。 恥ずかしくてまともに彼の顔を見れなかった。 「未知は可愛いな、見てて飽きないよ」 ハートの形を作っていた親指と人差し指を彼の大きな手にそっと握り締められた。そのまま高く掲げられて、手の甲にチュッと、まるで誓いのキスのように軽く口付けをされた。

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