｢それでも母親か、そう言ったんだ。聞こえなかったか？｣ 静かに響く低い声で、鋭い目付きで咲さんを睨み付けた。 ｢何だてめぇ、姐さんに喧嘩を売るのか？｣ 彼女の警護をしていた男達が一斉に駆け出し信孝さんに殴りかかった。 「別に喧嘩を売るつもりも買うつもりもない」 男の手首をがしっと鷲掴みすると、他の男達を目で威嚇しながら足を引っ掛けて転倒させて、みぞおちに踵を捩じ込ませた。 「てめえ、調子に乗るなよ！ぶっ殺してやる」 別の男が喚き立てながら拳を振りかざし飛び掛かった。 「何度も言うが喧嘩をするつもりはない。じきにサツが駆け付ける。捕まりたくなかったら、大事な姐さんを連れて、真沙哉のところにとっとと帰れ」 スッと避《よ》けると、胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げ、咲さんの足元に向かって投げ飛ばした。 「貴方何者？」 咲さんもようやく信孝さんがただ者でないことに気が付いたみたいだった。 「縣信孝………縣一家組長・縣遼成の弟だ」 「遼成にもう一人弟がいたなんて、そんなの聞いたことないわ」 「貴方が遥琉に出会うずっと前に、縣の家を出てるから、知らなくて当然だ」 狼狽えながら後退りする咲さんを颯人さんたちがぐるりと取り囲んだ。