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番外編 紅涙
眠れる獅子が目を覚ましやがった。このまま大人しく寝てくれればいいのに。柚原さんが悔しそうに唇を噛み締めた。
子供達を寝かし付けてくれている彼と橘さんの耳にも恐らく入ってるはず。
「そういえば……」
頬杖をつきながら片手でスマホを操作していた千里さんがぼそっと呟いた。
「真沙哉で思い出したんだけど、森崎っていたでしょ、直矢の教育係の」
「あぁ」
「今は鷲崎組の森崎だって言ってたけど、彼、元々龍一家の人間なのよ。真沙哉の子飼いの舎弟だったの」
「はぁ!?」
初めて知ったみたいで声が裏返っていた。
「子飼いなら、何で真沙哉に付いていかなかったんだ?」
「それはね………」
千里さんが意味深な笑いを浮かべた。
「それ以上は他言無用ですよ」
ぐずる太惺をあやしながら橘さんが姿を現した。
「パパよりママじゃないと駄目みたいです」
太惺を手渡され横に抱っこした。
「千里余計なことは言わないように」
「えぇ~何で」
何か後ろめたい事でもあるのか、いつも冷静沈着の橘さんが珍しく焦っていた。
「何だ優璃、俺に隠し事でもあるのか?」
柚原さんが怪訝そうに顔をしかめた。
「ある訳ないでしょう」
「森崎はね、真沙哉よりお兄ちゃんになついて、かなり入れ込んでいたみたいだってダーリンが言ってたのよ」
「千里、それ以上は言うな!」
橘さんが声を荒げ、慌てて止めに入った。
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