483 / 3588
SunkusSS 愛人と情人
「マー甘えたい」
お風呂場から聞こえてくる子供たち賑やかな声を聞きながら洗い物をしていたら、琥珀さんが近寄ってきて背中に顔を埋め、すりすりと頬を擦り付けてきた。
「俺………浩然の情人(チンレン)じゃなく愛人(アイレン)になりたかった……」
「琥珀さん?」
「中国では愛人は妻のこと。情人が日本でいう愛人のこと」
「そうなんだ、分からなかった」
「分からない当たり前」
クスっと優しく笑われた。
「浩然、チンレンいっぱいいた。俺その一人。気紛れに抱かれて、一度も好きって言って貰えなかった。悲しい」
琥珀さんがずずっと鼻を啜った。
「マーと一緒。気色悪い、疫病神いっぱい言われた。それでも、俺、好きだったから、我慢した」
「琥珀さん……」
予想もしていなかった言葉に驚き、返す言葉がすぐに見付からなかった。
「マーはいいね。好きなひと、たくさん」
世界中の誰よりも真沙哉さんだけを愛していた琥珀さん。その一途な想いは実を結ぶことはなかった。
ともだちにシェアしよう!