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番外編 マル暴の男
このまま何事もなく時間が過ぎて欲しいと願いながら、お手手をグーに握りねんねする太惺と心望の寝顔を目を細めて眺めていたら、急に周囲が騒々しくなった。
「伊澤さん勝手に入って貰ったら困ります」
彼や幹部の皆さんが必死で止めるのを振り切り、男が悠然と客間に入ってきた。
年の頃六十手前。身長はゆうに180センチを越えている。
目付きは肉食獣のように鋭く、痩けた頬には大きな傷があり、それがさらに男を猛々しく、強面に見せていた。
男性は辺りをキョロキョロと見回して誰かを探しているようだった。
恐らく紗智さんを探しているんだと思う。だからなるべく目を合わせないようにしていたけれど…………
間の悪い事に太惺がふぇ~~んふぇ~~んと急に泣き出してしまった。
「大丈夫だよ太惺、ママっておいで」
頭を手で支えながら静かに抱き上げて、あやしていたら男性と何気に目が合ってしまった。誰よりも獰猛な目付きをしていた。
「もしかしてお前が卯月の女房か?」
「えっと………その………」
じろりと脅すように見下ろされ、恐怖のあまり肩がぶるぶると震えた。
「男だよな?お前?俺が聞いた話しでは一回り年下の若い姉ちゃんと再婚して4人もガキがいるって………そっか、なるほどな」
口元を歪ませクスリと笑われた。
「俺は伊澤、お前名前は?」
「………未知………です」
おっかなびっくり男性の顔色をチラチラと伺いながら答えた。
「で、ガキの名前は?」
「年は?」
まるで尋問されているかのように矢継ぎ早に質問を投げ掛けられた。
「伊澤、もうちっと優しく聞けねぇのか?」
男性が怖くて上手く言葉が出せなくてオロオロしていたら、見かねたお義父さんが助け船を出してくれた。
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