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番外編 マル暴の男
じろじろと好奇の眼差しを向けられて、にたにたと笑いながら全身を舐め回すように見られて。
紗智さんや真沙哉さんがいなかったら、男たちの慰み者になり、子供達も殺されていたいたかと思うと今でもゾッとする。
小指にも金の指輪を嵌め、乱杭のような歯にも上下無暗と金を入れている中年の男性や、恰幅のいい初老の男性の
顔を見た途端、呼吸が荒くなり息苦しくて思わず胸元をぎゅっと掴んだ。
「無理するな」
彼が駆け寄ってくれて肩を静かに抱き寄せてくれた。
「ありがとう遥琉さん」
「いちいち礼なんていらない。俺達夫婦だろ?」
「うん」彼の何気ない優しさ、そして気遣いが涙が出るくらい嬉しかった。
ガタガタと指先が震えて、記憶がいまいち曖昧で覚束なかったけど、見覚えがある男性を一人ずつ指を差した。
「おじちゃん」
テレビを夢中で見ていた一太が急に立ち上がり、臆することなく真っ直ぐな瞳で伊澤さんを見上げた。
「ママをいじめないで。ママわるくない」
「別にいじめている訳じゃない」
「じゃあなんで、なんでママないてるの?ママがないてるから、たいちゃんもここちゃんもかなしくてないてるんだよ。おじちゃん、わかんないの?」
怖がることなく大きい声で自分の意見を堂々と述べる一太に、彼もお義父さんも、裕貴さんも驚いて面食らっていた。
言われた伊澤さんは……というと、一瞬だけ目を見張り、嬉しそうに顔を緩ませた。
「もしかしてお前が一太か?播本が自慢の曾孫なんだって会う度に言いやがって。一度会ってみたかったんだ。なぁ一太、播本のおじいちゃんは好きか?」
「うん!だいすき!」
「じゃあ、そこにいる狸親父………じゃあねぇな、おじいちゃんも好きか?」
「うん!」
両手を大きく広げ、
「ゆうおじちゃんも、こころおにいちゃんも、せんりおねえちゃんも、たちばなさんも、ゆずおじちゃんも、みんなみんなこのくらいだいすきだよ」
と満面の笑みを浮かべて答えた。
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