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番外編 マル暴の男
「でもね、いちたがいちばんすきなのはパパだよ」
「そうか」
「うん。おっきくなったらいちたがパパやママをまもるんだ」
頼もしい一太の言葉に、彼の目はうるうるしていた。
「まさに鬼の目にも涙だな。卯月、湍水組の二の舞にだけはすんじゃねぇぞ」
伊澤さんがそう言いながら一太の頭を優しく撫でてくれた。
「お前は確か九鬼の倅。噂通り鼻っ柱の強そうな、なかなかの美人じゃねぇか。浩然やりーに随分と可愛がって貰ったみたいだな」
客間を後にした伊澤さんが、廊下に控えていた颯人さんと睦さんに気付き声を掛けた。
「尻尾振って媚びれば組の一つでも貰えたんじゃねぇのか」
睦さんは俯いたまま、唇を真一文字に結び押し黙っていた。グーに握った手が膝の上で小刻みに震えていた。
「大丈夫か?」
見かねた颯人さんが両手を伸ばし、睦さんの手を包み込むようにそっと重ねた。
「睦はもう九鬼の倅じゃない。俺の弟分として一からやり直す道を選んだ。心に負った傷が癒えるまでそっとしておいて欲しい」
怖めず臆せず伊澤さんに言い返した。
「流石播本の倅。雄々しい姿が段々と播本に似てきたな」
重苦しい空気を笑って飛ばすと、機嫌良く広間へと戻っていった。
「兄貴すみません、俺・・・・」
伊澤さんの姿が見えなくなり、緊張の糸がプツリと切れたのか、睦さんが大粒の涙を流しながら颯人さんに凭れ掛かるように倒れ込んだ。
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