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番外編 神隠し

遥さんはおそらく、組事務所を取り囲んでいる九鬼総業の二次団体の関係先に監禁されていると踏んだ鷲崎さん。 現に遥さんのスマホのGPSもその付近を指し示したのを最後に途絶えていた。 柚原さんにはまだ腕は鈍っていないはずだ。力を貸してくれと頼み込み、直矢くんにはお前はここに残って、七海と未知と紗智と子供達を何がなんでも守り抜け。そう告げた鷲崎さん。 「力貸せるものなら貸してやりたいが、優璃と一緒になるときに誓ったんだ。もう二度と危ないことはしない、裏家業から足を洗うって」 相反する感情に葛藤し、険しい表情で唇をぎゅっと結ぶ柚原さん。 そんな彼に橘さんは、 「自分の信念を曲げてまで嘘を突き通すつもりですか?遥さんが待ってますよ、鷲崎さんと早く助けに行ってあげてください」 柔らかな微笑みを浮かべ、渋る背中を押した。 二人を見送ったあと、橘さんは祈るような眼差しで月の明かりが煌々と輝く夜空をいつまでも眺めていた。 『子供達はみんな寝たのか?』 日付が変わる直前に彼からメールが届いた。 ちゃんと戸締まりしたか? 一太も遥香もパパがいないって泣いてないか? 寝る前に一太のことトイレに連れていってくれたか? 太惺も心望もお利口さんにしてねんねしているか? 本当に過保護なんだから…… スマホの画面を見ながら思わず吹き出してしまった。 そんなときだった。 背筋が凍り付くくらい冷たい風がどこからか吹き込んできたのは。 でも辺りを見回しても誰もいなくて。 その時は気のせいだろうそう思ってさほど気にもしなかった。

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