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番外編 生命(いのち)の線引き

お昼前に鷲崎さんと柚原さんが戻ってきた。 遥さんは、下ろしてください。蚊の泣くような声で恥ずかしそうに鷲崎さんにおんぶされていた。 「良かった三人とも無事で………」 ホッと胸を撫で下ろす橘さんと七海さん。 「俺達の方は心配ない。それよりも未知、大丈夫か?」 鷲崎さんに心配そうに顔を覗き込まれた。 「ちょっと鷲崎。近すぎ」 すぐに彼が飛んできて、むすっとして鷲崎さんを睨み付けた。 「これだから焼きもち妬きは困るんだ」 やれやれとため息をついていた。 「直矢を少しは見習ったらどうだ?」 「お前が怖くて焼きもちを妬けないんだろう」 「そうなのか直矢?」 直矢くんは気まずそうに顔を逸らし小さく頷いていた。 「どこが大丈夫なの」 「こんなの掠り傷だ」 心配する七海さんの声は恐らく鷲崎さんの耳には入っていない。 「遥琉の女房に包帯を巻いてもらうのも悪くないな」 鷲崎さんはすこぶる機嫌がいい。 「遥を助けるためアジトに乗り込んだ時、卯月の妻子のもとに刺客を送り込んだ。今ごろ卯月は家族を喪って相当落ち込んでいるだろうな。人を小馬鹿にするように笑いやがった。なぁ未知。一太が産まれたのは理由があると思うんだ。お前と遥琉を巡り会わせる為、あの焼きもちやきに会うために一太は産まれてきた。だからそんなに自分を卑下するな」 肩に包帯をぐるぐる巻き終えると、 「未知ありがとうな。一太は誰がなんと言おうが遥琉の息子だ。拳銃を突き付けられても動じなかった。たいしたものだ」 鷲崎さんの視線が彼や紗智さんに遊んでもらいはしゃぐ一太と遥香へと向けられた。 「未知、真沙哉は生きてる。噂じゃあ、弟の女房にぞっこん惚れているらしいぞ。お前も大変だな。鳥飼といい、真沙哉といい」 驚いて声も出ない僕に、くすりと苦笑いしながらシャツを肩に羽織った。

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