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番外編 生命(いのち)の線引き

「おぃ鷲崎、今聞き捨てならない言葉が聞こえてきたんだが、気のせいか?」 「気のせいだ」 たく相変わらず地獄耳なんだから、やれやれとため息をつく鷲崎さん。 「もしかしたら鳥飼より真沙哉の方がしつこいかも知れん。紗智の事も諦めてはいないだろう。気を付けろ」 そう言って渡されたのは中国語で書かれた一枚の紙切れだった。 「紗智に日本語にして貰うといい。恐らくリーの指示書だろう。文中に李浩然とあるから、これで何か手掛かりが得られればいいが」 「ありがとうございます鷲崎さん」 「いちいち礼なんかいらない。お前を馬鹿がつくくらい溺愛して止まない遥琉のことだ。何があっても遥琉を信じろ。黙って付いていけば、どんな困難でも克服出来るはずだ」 音もなく鷲崎さんの腕が腰に伸びてきて。 気が付けばふわっと体が宙に浮いていた。 「わ、鷲崎しゃん!」 驚き過ぎて変な声が思わず出てしまった。 「鷲崎てめぇ」 彼もビックリして抱っこしていた遥香を思わず落としそうになった。 「遥琉、お前が未知に心配ばかり掛けさせるからだろう。だからこんなにもガリガリに痩せて………もうちょい楽させてやれ」 「お前にいちいち言われなくても分かってる」 「ならいいが」 くすっと苦笑いしながら、 「五人目の報告、七海と首長くして待ってるぞ」 「鷲崎さん、それはその………」 顔から火が出るくらい恥ずかしいことをさらりと口にされ、身の置き場に困り果ててしまった。それなのに鷲崎さんたら……… 「何だもう倦怠期か?」 「ち、違います!」 まともに顔を見ることが出来なくて慌てて顔を逸らした。

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