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番外編 真沙哉さんが失った大切なもの

昼間でも薄暗い部屋の奥から真沙哉さんがゆっくりとその姿を現した。 「……………!」 驚愕のあまり眼を見開いて視線が釘付けになった。 「リーは邪魔になった浩然の口を封じようとプライベートジェット機を故意に墜落させた。浩然はブラックハッカーや一介のチンピラに過ぎなかった俺達を昔から何かと助けてくれたんだ。だから俺達はどうしても彼を助けたかった」 普通なら然程気にもしない、ちょっとした段差に手こずる真沙哉さん。見かねた地竜さんが車椅子をぐいと押した。 「墜落の衝撃で脊髄を損傷し恐らく一生車椅子生活だろう」 「そんな………」 傲慢で自分のことしか考えない。 女性も使い捨ての駒としかみない。 この十年、彼を深く憎み目の敵にしてきた真沙哉さんのあまりの変わりように愕然となった。 「妻子をリーから守るため、菱沼組の狸ジジイに匿って貰っている。迎えに行きたい。何度も頼まれて。無下に断る訳にもいかないだろう。浩然は今まで特定の女を絶対に作らなかった。それがまさか結婚し、子供が三人もいたとはな。まさに青天の霹靂」 「地竜さん、何度も言ってるけどそれは誤解で…………」 「浩然が嘘を付いているとでもいうのか?」 目を吊り上げて睨まれた。 「だから、その…………」 どうしたら分かってくれるんだろう。誤解だって。

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