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番外編 一太と地竜(ディノン)さん

「嘘つくの上手い」 「嘘じゃない」 本当の事なのに何で信じてくれないの? ダオレンさんは聞く耳すら持ってくれなかった。取り合ってもくれなかった。 「地竜、未知や子供たち気に入ってる。ほら噂をすれば……」 クスリとダオレンさんが苦笑いした。 すぐに胸ポケットからスマホを取り出すと耳にあてた。 『変わりはないか?』 電話の相手は地竜さんだった。低い声が漏れ聞こえてきた。 『リーは琥珀を匿っている菱沼組を襲い、琥珀を拐い道連れに一緒に死ぬ気だ』 地竜さん今なんて? 菱沼組を襲うって……………彼や遥香や橘さんや組のみんながいるのに……… 何で無関係な人を巻き込まなきゃいけないの。 それに紗智さんを道連れにするって………真沙哉さんとの叶わぬ恋に苦しみもがいて、やっと踏ん切りをつけて、鞠家さんとやっとこれから幸せになるのに………何で、紗智さんの幸せを、未来を奪おうとするの? 「地竜さん、それって………本当………ですか?」 動揺して上手く言葉を繋げることが出来なかった。 『菱沼組を襲う前にリーの息の根を止める。だから安心しろ。未知が世話になったんだ。恩を仇で返すわけにはいかない』 「地竜さん、僕は卯月未知。菱沼組組長、卯月遥琉の妻です。家に…………みんなが待てくれている菱沼組(うち)に返してください」 藁をも掴む思いで必死に訴えかけた。でも返ってきた言葉は……… 『ダオレン、未知が逃げないようしっかり見張っておけ』 昨夜の優しかった地竜さんとはまるで別人のような冷たい言葉だった。

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