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番外編 閨怨

「紗智には少し難しかったかな?」 上澤先生が紗智さんに分かるように説明してくれた。 でも鞠家さんにとってはそれが面白くなかったみたいで。 俺の紗智を気安く呼び捨てにするなと言わんばかりに睨み付る鞠家さんに、上澤先生もやれやれとため息をついて苦笑いするしかなかった。 紗智さん達が帰ったあと肩を落とししゅんとして彼が戻ってきた。南先生だけじゃない。橘さんや、度会さんにもかなりみっちりと怒られたみたいで、椅子に腰を下ろすなりため息ばかりついていた。 「ごめんな未知。橘の言うことを聞いて避妊具(ゴム)をちゃんと付けていれば妊娠を避けられたのかも知れない。橘や度会さんは未知の親代わりだ。二人が怒るのも当然だ」 ううん、遥琉さんだけが悪いんじゃないよ。首を横に振った。 「紫さんには、欲しくて作ったんだから、夫婦で責任を持って、5人分け隔てなくちゃんと愛情を注いで育てなきゃダメよ。そう言われた」 おっかなびっくり彼の手がおなかに触れてきた。 「良かった、温かい………さっきはすごく冷たくて心配したんだぞ」 「ごめんね遥琉さん」 「いちいち謝らなくていい。妊娠が確定して安定期に入るまで、箝口令を敷かないとな。ただし親父と茨木さん、あと秦さんだけには、オレの方からちゃんと伝えておく。それでいいか?」 「うん」彼の手の上に自分の手を重ね、にっこりと微笑んで頷いた。 そしたら彼………… 「は、遥琉さん!」 「俺だって未知が可愛くて可愛くてしょうがないだ。エッチが出来ない代わりにキスくらいさせてくれ」 彼の口唇が頬っぺたに触れ、そして唇に触れてきたから慌てた。

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