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番外編 閨怨
「いいなぁ………」
そんな三人のやり取りを眺めていた那和さんが寂しそうに項垂れてポツリと呟いた。
毎週欠かさず真沙哉さんに手紙を書いて弁護士さんに送っているものの、なかなか返事が来ない。
「それなら会いに行きますか?」真っ先に気が付いた橘さんが優しく声を掛けてくれた。
「でも………」
渋る那和さんに、
「真沙哉さんだってあなたを待っているはずです。千里に護衛を頼みます。それならいいでしょう」
橘さんの言葉に、那和さんの表情が一気にぱぁ~~と明るくなった。
まだ4週目前半で胎嚢は確認出来なかったものの、子宮内膜が厚くなっていることがエコーで確認出来たみたいで、間違いなく妊娠状態に入っていると南先生に告げられた。
最悪の事態を予想していただけに、一番聞きたかった言葉を聞けてほっとし胸を撫で下ろした。
「良かったな未知」
「うん」
付き添ってくれた彼と手を取り合い喜びを分かち合った。
「はじめましてベビハル」
「たまには違う呼び方にしないか?」
「え?何で?」
「自分の名前を呼ばれているようで背中が痒くなるんだ」
じゃあ何て呼ぼうかな?
ぺたんこのお腹をそっと撫でた。
彼も目を細め嬉しそうに撫でてくれた。
「卯月さん」
「は、はい」
話しがあるからと先生にこのまま残るように言われた彼。
頭の痛いことを二度、三度と先生にズバズバと容赦なく注意されみたいで、先生に名前を呼ばれるだけでびくびくしていた。
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