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番外編 閨怨
日焼けすると必ず跡が残るからと、いつも日傘を差し、真っ白な帽子を被り、長袖のグレーの小花柄のワンピースを好んで着ていた女性《ひと》ーー
思い当たる人は、たった一人しかいなかった。
(・・・・・嘘・・・・・・)
その女性《ひと》の顔と名前を思い出した途端、ブルブルと寒くもないのに体が急に震えだした。
(はる、さん、たすけて……!)
恐怖のあまり声が出なかった。
女性はつかつかと早歩きで僕に近付いてきた。
彼のところに逃げようとしたしたけれど、足がすくんでしまい、まるで縫い止められたように動くことが全く出来なかった。
「未知‼」
女性が醸し出す異様な空気に、勘の鋭い彼がすぐに気付いてくれて。慌てて駆け付けてくれた。
ふふふ。帽子の下から見える真っ赤な唇がくしゃりと歪み嘲笑っていた。
「純真無垢なフリをして、人の亭主を誘惑して寝取った最低最悪の悪魔よ、こいつは。邪魔になった私の赤ちゃんを殺しておきながら、よくもまぁ、平気な顔で外を歩けるわね」
忌々しいとばかりに舌打ちをし、底無しの憎悪を、計り知れない憎しみを向けられた。
「貝沼彩…………いや、李真珠。未知への逆恨みと復讐だけを生きる糧にしているお前に何を言っても糠に釘だと思うが、未知は何も悪くない」
僕やおなかの子を守るために、彼がすっと前に出た。
彩さんが銃やナイフを隠し持っているかも知れないのに丸腰で対峙した。
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