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番外編 暗澹

車両火災が鎮火するのを待ってお客さん達は各自部屋に戻り、僕達はお客さんに迷惑をかけないようにログハウスに移った。 一歩中に入るなり吐き気を催し、トイレに駆け込んだ。 「マー大丈夫」 「救急車呼ぶ?」 紗智さんと那和さんが駆け寄ってくれて、背中を擦ってくれた。 「うん、大丈夫。ただの悪阻だから・・・・」 立ち上がろうとしたら、くらっと目眩がして、ふらふらとと二、三歩後ろに下がり、そのまま倒れそうになった。 「マー」寸でのところで二人が抱き止めてくれて、事なきを得た。 「橘、マーが!」 「早く!」 紗智さんと那和さんが呼んだのは、彼じゃなくなぜか橘さんの方だった。 「オヤジ、マーを構い過ぎる」 「余計に具合悪くなるでしょう」 言われてみればそうかも知れない。 「未知さん大丈夫ですか?」 橘さんが血相を変え駆け付けてくれた。 「ごめんなさい。目眩がしただけだから。もう何ともないから………」 「顔が真っ青ですよ。何ともない訳がないでしょう。ここでは体が冷えます。紗智さん、那和さん手を貸して下さい」 てきぱきと2人に指示を出して、体を支えてもらい何とか寝室に移動した。 ママだいじょうぶ?」 ベッドに横になると、まだ起きていた一太がごそごそとよじ登ってきて隣にそぉーと静かに潜り込んできた。 「ちょっとまだ気持ち悪いけど大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」 一太の頭を撫でると、良かったそう言ってにこにこと笑ってくれた。 隣のベッドで遥香を寝かし付けてくれていた彼もそんな一太を見て目を細めていた。 「珍しい、オヤジ焼きもち妬いてない」 那和さんが驚いたように声をあげた。 「本当だ。珍しい」 紗智さんも驚いていた。 「あのなお前ら………」 プルプルと握り拳を震わせた彼に、 「遥琉、大人気げないですよ」 橘さんがやれやれとため息をつきながら苦笑していた。

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