673 / 3634
番外編 暗澹
外から聞こえてくる一太の賑やかな声で目が覚めた。
黄色い園鞄を背負った一太が、紗智さんや那和さんと鬼ごっこをして遊んでもらっていた。彼や惣一郎さんは立ち話をしながらそんな三人を優しく見守っていた。
蜂谷さんらが張り込んでいる以外は、いつもと何ら変わらない朝を迎えていた。
遥香に、太惺に、心望、三人とも寝顔がそっくりで、三人してお手手を万歳して………
本当に可愛い。悪阻の辛さも、子育ての疲れも一瞬で吹き飛んでしまうから不思議だ。
起こさないように子供達の頭を撫でていたら、ギシギシと木が軋む音が上の階から聞こえてきた。
この時間帯は、橘さんは和江さんと朝食を作っているから、誰もいないはずなのに………おかしい。
とっさに枕元に置いてあったスマホに手を伸ばした。
地竜さんだって鍵のかかった窓でもごく普通に開けて入ってくるんだもの。
気のせいかも知れない。でも昨日の今日だから、なにかあってからでは遅い。
『そうかすぐ戻る』
すぐに電話に出てくれた彼。
スマホを耳にあてがいながらこっちに向かって走り出した。
ちょうどそこへ幼稚園バスが滑り込んできた。
惣一郎さん達に笑顔で手を振りながら、一太は元気よく乗り込んでいった。
幼稚園バスが走り出して、今まで誰もいなかったその場所に思いもよらない人が立っていたから、まだ通話中だった電話に向かって叫んだ。
「遥琉さん、惣一郎さん逃げて!紗智さんも、那和さんも!」
ともだちにシェアしよう!