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番外編黒い魔の手

盃直しの儀式が滞りなく終わり、新幹線に飛び乗った彼。こっちに向かっている。 あと一時間くらいで到着するって、さっきメールが届いた。 「未知さん、少し横になったらどうですか?」 子供達と一緒にお風呂から上がってきた橘さんに声を掛けられた。 「はい。でも……」 言い渋っていると、 「一人だけの体ではないんですよ。たいくんとここちゃんは紗智さんと那和さんが寝かし付けてくれていますし。未知さんも部屋に戻ってください。一太くんとハルちゃんは私が面倒をみますから」 遥香の濡れた髪をタオルで優しく拭きながら、にっこりと微笑み掛けられた。 昔、ここ一帯は安達ヶ原と呼ばれ、人を喰う鬼婆が棲んでいたという伝説が残っている。 乳母として溺愛して育てていた姫が不治の病に冒され、姫の病を治すため妊婦を襲い鬼になってしまった哀しい乳母の姿が彩さんに重なった。 情け無用、それは分かる。頭では分かるけど……… 彩さんを救うことが出来ない自分が情けなかった。悔しかった。

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