696 / 3578
番外編 黒い魔の手
紗智さんは太惺を腕にしっかりと抱き締め、目に涙を浮かべながら頭を下げた。
那和さんも一緒に男に頭を下げた。
「もう遅い………」
男がポケットから取り出しのはライターとペットボトルに入った透明の液体だった。
「お前らを殺せば俺は黒竜の幹部になれる」
「紫竜に唆されたのか?」
鳥飼さんが僕達を守るため、すっと一歩前に出た。
「紫竜はリーと同じで、私利私欲のためなら平気で人を騙す。身内でも歯向かうものは容赦なく切り捨てる冷徹な男だと聞いた。 目を覚ませ」
「ウー ユェイン!」
(五月蝿い!)
男がペットボトルの液体を階段に撒き散らしはじめた。
(うっ………)
ツンと鼻につく灯油の匂いに気持ちが悪くなり口を押さえその場にへたりこんだ。
灯油の匂いは、悪阻が酷い僕にとっては不快な匂いでしかなくて。
「橘!惣一郎さん!誰かいないのか!オヤジはまだか!」
姐さん気を確かに、鳥飼さんが体を支えてくれて大声で叫んだ。
そのとき、この世の終わりを告げるかのような激しい雷鳴が轟いた。
太惺も心望もその音にびっくりして、声を震わせ顔を真っ赤にしわんわんと大声で泣きはじめた。
「止めろ!」
紗智さんと那和さん、それに鳥飼さんが叫んだのはほぼ同時だった。
不気味な笑みを浮かべながら男がライターの火を付け、自分が撒き散らした液体に投げ込んだのだ。
ともだちにシェアしよう!