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番外編 ごめんね、

窓から見える漆喰の壁が特徴的なペンションを夫婦で経営している。 火事で二階の一部が焼けリホームの真っ最中だけど、被害を辛うじて免れた一階で観光客とご近所さん相手にカフェのお店を開いている。 一太が卒園する3月まで面倒をみると卯月と男の約束をしたんだ。この命に代えても上総の嫁とひ孫は守る。 見せもんじゃねぇぞ。 未知はむしろ被害者なんだ。 何も悪いことはしていないのに、寄ってたかって悪者にして、何が面白いんだ。 退院した日、ペンションに押し掛けてきたマスコミを、惣一郎さんが竹刀を振り回しあっという間に追い返してくれた。 子供達を目に入れても痛くないくらい可愛がってくれる和江さんにも感謝しても仕切れない。 ここにいるみんなは、僕の味方。 でも、誰かが足りない。 その誰かが分からない。思い出そうとしても、靄が掛かかり思い出せない。 僕のことをすごく大切にしてくれた大切な人達なのに、なんで、忘れてしまったの?なんで、思い出すことが出来ないの? 悔しくて悔しくて涙が滲んだ。 「あのな、お前ら俺達を未知に会わせない気か?」 「たく、抜け駆けしやがって」 二人の男性が苛立ちを露にし部屋に入ってきた。 えっと………誰だっけ? 何とか思い出そうとしたけれど、名前が出てこなかった。 「ただでさえ顔が恐いんだ。未知やおなかの子がびっくりするだろう」 「お前だけには言われたくない」 「どこまで過保護なんだか」 二人がやれやれとため息をついた。 「未知、目付きが鋭いのが心のダンナの裕貴で、年に似合わず柄シャツを着てるのが千里のダンナの笹原だ」 「おぃ、そんな紹介の仕方があるか」 「たくお前は」 あれ、確か今ダンナって? 意味がいまいち理解出来なくて、目をパチパチしていたら、二人に笑われてしまった。

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