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番外編 穏やかで愛おしい日々

「後ろを見てるから、先に入ってていいぞ」 躊躇して服を脱げずにいたら、彼がくるっと後ろを向いた。 ドアの向こう側では橘さんと、騒ぎを聞き付け様子を見に来た鷲崎さんが立ち話をしていた。 彼の背中をチラチラと見ながら、急いで服を全部脱いで籠の中に入れ、逃げるように浴室に入った。 彼が来る前に体を洗おうとシャワーに手を伸ばした時だった。ツルツルした床に足を取られて危うく転びそうになった。 「危ない!」 寸でのところで彼が抱き止めてくれて事なきを得た。それまでは良かったんだけど………… 「どうした?」 彼と目が合いドキリとして身体が震えた。 厚みを感じさせる胸板。 無駄な肉が一切ない、腕や胸の引き締まった筋肉が眩しいくらいに逞しくて、目のやり場に困ってしまった。 「未知は可愛いな。すぐに顔に出るから、見てて飽きないよ」 クスリと笑うと、椅子に座らせてくれた。 「俺が全部洗ってやる。恥ずかしいなら、下を向いていいぞ」 鼻唄を口ずさみながら、ボディソープの泡をたくさん両手で取った。 鏡越しにチラッと様子を伺うように彼を見ると、すぐに目が合って。慌てて逸らした。 子供が四人とお腹に一人いるのに今更恥ずかしがっても仕方がないのに。自意識過剰って言われるかもしれないけれど、意識しないようにすればするほど逆に意識してしまって、身体中が火照ってどうしようもなかった。

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