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番外編 命をかけた彼の一途な想い
「睦さんが幸せになれたのは姐さんのお陰なんだ。俺からも礼を言う」
あれ?鳥飼さんの方が年上なのに……何でさん付けなのかな?きょとんとして首を傾げると、
「睦さんは昇竜会とかつて敵対関係にあった九鬼総業の組長の息子だ」
ヤクザは縦社会だって彼が言っていた。
僕には難しくてなかなか理解することが出来なかったけれど。
「あのね未知………」
「あとは俺が話します」
鳥飼さんが睦さんの言葉を遮った。
「分かった。廊下で待ってるから」
睦さんが気を遣ってくれて。鳥飼さんと二人きりにしてくれた。
彼に聞きたいことはやまのようにあるのに、何から切り出していいか分からなくて、えへへと笑って誤魔化した。
「みんな大袈裟なんだ。たいした怪我もしていないのに」
鳥飼さんは僕に心配を掛けさせないようにしていたけれど、体を動かす度辛そうに顔を歪めていた。
僕を庇い彩さんに脇腹を刺されたこと。
僕や子供達を炎の中から助けるために全身に大火傷を負ったこと。
完治するまで3ヶ月以上かかるということ。
地竜さんも僕を助けるため火傷を負い緊急搬送されたけど、治療より青蛇を壊滅させる方が先と、病院からいなくなったこと。
彼の口からそのことを聞いたとき、愕然とした。あまりのショックでその日は何も喉を通らなかった。
「姐さん、赤ん坊が親を選べないように、性別も選ぶことが出来ない。真珠は姐さんのことを疫病神呼ばわりして人格そのものを侮辱し非難した。姐さんに関わらなければ今頃九鬼総業の組長だったのに、姐さんのせいで棒に振ったのが悔しくないのか?犬に成り下がり恨んでいないのかって。俺も地竜も姐さんに出会えたことに感謝している。後悔はしていない。夫婦にはなれなくても、こうして姐さんの側にいるだけで俺も地竜も幸せなんだ。だから命は惜しくない。姐さんの為に死ねるなら本望だ。そのくらい、俺も地竜も姐さんを愛してる」
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