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番外編 命をかけた彼の一途な想い

「遥琉、落ち着け」 「地竜がいたから、未知が助かったんだろう」 「五月蝿い!」 遼成さんや龍成さん。それに笹原さんら数人の男達の制止を振り切り、目を吊り上げた彼が入れ違いに入ってきた。 地竜さんの胸倉に掴み掛かろうとした彼の手首を遼成さんがガシッと鷲掴みにした。 「播本さんの言葉、忘れたか?」 「忘れる訳がないだろう」 「なら、この手をどうするべきか、言わなくても分かるよな?」 遼成さんに諭され、振り上げた手を下ろすと、地竜さんに嫌々ながらも頭を下げた。 「礼がまだだったから………未知や子供達を助けてくれてありがとう」 「いゃ、別に………」 まさか彼に頭を下げられるとは思ってもみなかったのだろう。面喰らっていた。 「火傷の治療はちゃんとしてるのか?」 「こんなの掠り傷だ。たいしたことない。自然治癒でそのうち治る」 地竜さんが何かモゴモゴと口を動かしていた。 「言いたいことがあるならはっきりと言え」 痺れを切らした彼が聞き返すと、 「少しでいい。未知に甘えたい。鳥飼ばかりズルい。俺だって未知に甘えたい」 「は?」 今度は彼が驚く番だった。 「真珠が起訴され、刑期を言い渡されるまで黒竜が何を仕掛けてくるか予想すら出来ない状況だ。真珠は、リーの隠し財産の在処も、子供達の居場所も一切口を割らなかった。黒竜は血眼になってそれを探している。青蛇を潰すのに世話になった鞠家と柚原をカミさんのもとにどうしても無事に返したくて一緒に帰国したが、明日には上海に戻る。卯月、十分でいいから未知を独り占めさせてほしい」 深々と頭を下げた地竜さんに対し、彼は何も言わずジロリと睨み返した。

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