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番外編 真の黒幕
缶ビールを片手にバスローブ姿でベランダの手摺に寄り掛かかる那和さん。心配でほっとけなくて何度か肩をポンポンと叩いたけれど気付いていないのか、漆黒の空をぼんやりと眺めていた。
「マー風邪ひくよ」
半纏を持ってきてくれた紗智さんが肩に羽織らせてくれた。
「ほら那和も。風邪ひいちゃうから中、入ろう」
「ねぇ紗智、ボクはどうしたらいい?」
ぽつんと呟く那和さん。
「真沙哉は未知と同じで記憶を失っている。自分が犯した罪を覚えていない。那和、お前に出来るのは、真沙哉にちゃんと事実をありのままに伝えることだ。そして、犠牲になった尊い命を一生かけて共に弔うこと。それが償いになるんじゃないか」
彼がふらっと現れた。
「オヤジ、たまにはいいこと言うね。普段は橘さんの尻に敷かれてびくびくしてる癖に」
ぷぷと那和さんが堪えきれずに吹き出した。
「たまにって、それ酷くないか?それに尻に敷かれているって、俺は柚原じゃないぞ」
「だって本当のことでしょう」
「あのな那和」
「ありがとうマー、紗智。オヤジ。真沙哉に手紙出すよ。愛人(アイレン)としてちゃんと真実を伝える。だからオヤジ、もっと教えて」
「おぅ」
彼に励ましてもらい、いつもの明るい那和さんに戻ってくれた。
良かった。ありがとう遥琉さん。
ピピとその時、メールの着信音が鳴って。
ポケットからスマホを取り出して画面を見ると鳥飼さんからだった。
『なにかがへんだ。
みちようじんしろ。
ちかくにしんのくろまくがいる』
急いで入力したのか平仮名を漢字に変換せずそのまま送信したみたいだった。
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