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番外編 真の黒幕
「おぃ茂原!」
ドスのきいた低い声が辺りに響いた。初めて聞く声なのに、なんだろう。すごく懐かしい。
「まさか単身で乗り込んでくるとはな。顔に似合わずいい度胸している」
思わず身を乗り出し窓の下を覗き込んだ。
派手な柄シャツを粋に着こなした初老の男性が茂原さんと対峙していた
不思議だ。何も覚えていないはずなのに、男性の名前が一筋の涙とともに自然と口から零れ落ちた。
「……お……じい……ちゃん……」
「マーが…………マーが喋った。橘さん、聞いてた?一太くん、ハルちゃん、ママが喋ったよ」
側にいた一太と遥香が目を丸くしていた。
『えぇ、ちゃんと聞いてましたよ。茨木さん、どうやら間に合ったようですね』
「橘さんが呼んだの?」
『未知さんのまわりのお年寄りはやたらと元気で、血の気が多い方ばかりで本当に困ったものです。未知さんのことになると皆さん目の色が変わりますからね』
電話の向こうで橘さんがやれやれと溜め息をつきながら苦笑いしていた。
「炎竜と何があったかなんて、そんな野暮なことはいちいち聞かないが、自分がしていることは伊澤への裏切りだぞ。それを分かってやってるのか?」
「五月蝿い!五月蝿い!」首を横に振る茂原さん。
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