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番外編 真の黒幕

「鳥飼はあぁ見えても、実力だけで九鬼総業の若頭まで上り詰めた男だぞ。そうやすやす殺される訳がないだろう」 そこへ竹刀を握り締めた惣一郎さんが駆け付けた。それに蜂谷さんと、玉井さんらお巡りさんたちも。 『未知さん電話を一旦切りますね。何があってもそこから離れないように、いいですね』 スマホを両手でギュッと握り締め、このまま何事もなく時間が過ぎていくのをただ静かに祈った。 「くそ」多勢に無勢。勝ち目がないと踏んだ茂原さん。懐から拳銃を取り出すと、彼の隣にいた那和さんに銃口を向けた。 真沙哉さんと何があっても添い遂げると覚悟した那和さん。銃口を向けられても臆することなく毅然と前を向き一歩前へと進み出た。 その凛然とした態度に茂原さんの心は大きく揺れ動いているように見えた。でも、それを振り払うかのように頭を大きく横に振ると、狂ったように喚き散らしながら空に向けて一発発砲し、蜂谷さんたちに向かって猛然と走り出した。 華奢で小さなその体にどれほどの力を秘めているのだろう。取り押さえようとするお巡りさんを難なく振り払うと、蜂谷さんと玉井さんの前で一旦立ち止まった。 一瞬だけじろりと睨み付けるとそのまま走り去った。 「ぼさっとしていないで、早く追え!」 玉井さんの声にお巡りさんが慌てて後を追い掛けた。 「お前らは追う必要はない」 追い掛けようとした若い衆を彼が止めた。 那和さんの肩に手を置くと、鞠家さんと一緒に中に入るように声をかけた。 二人と何か言葉を交わしていたみたいだけど、何を話していたかまでは分からなかった。

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