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番外編 真の黒幕
もうちょっとで胸ぐらに掴み掛かろうとした彼に、不適な笑みを浮かべ後ろへ下がったのは、蜂谷さんでも駐在所のお巡りさんでもなかった。
「那和、たいくんとここちゃんを頼む」
戻ってきた鞠家さんが、両手を大きく広げて僕と紗智さん、それに子供たちをぎゅっと抱き締めてくれた。
「一太、ハルちゃん、しばらく目を閉じていろ。おじちゃんがいいと言うまで絶対に目を開けちゃ駄目だ。いいな?」
「はぁ~~い」
「わかった」
鞠家さんに言われ二人とも大きな声で返事をした。
「紗智、未知………」
何かを言いかけたまさにそのとき、パンパンと乾いた音が二発鳴り響いた。
その直後、辺りの音をすべて持ち去ったように静かになった。
「はる、さんは?おじい、ちゃんは?そういちろうさんは?」
懸命に言葉を紡いだ。
鞠家さんは外をじっと見詰めたまま微動だにしなかった。
「彼はかつて警視庁生活安全部保安課・風紀第二係の一人だった」
鞠家さんが寂しそうにポツリと呟いたのはそれから数分後の事だった。
「決して出会ってはいけない容疑者と被害者家族が出会ってしまった。だからこの事件が起きたのかも知れない。茂原は真沙哉の家族に復讐するためにマル暴になり炎竜と手を組み、彼は大事な家族を殺した容疑者二人を探し出し復讐するために警察官になった」
「高行さん…………?」
きょとんとして紗智さんが鞠家さんを見上げた。
いつものように穏やかな表情の裏に、深い哀しみが湛えられているように見えた。
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