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番外編 真の黒幕

「随分と賑やかだな」 彼とお祖父ちゃんが戻ってきた。 「おぃ鞠家、どさくさに紛れて人の女房の手を握っているな」 「未知が離してくれないんだ。俺は悪くない」 「は?」 彼に睨まれてまだ手を握ったままだったことに気が付いて、慌てて手を離した。 「彼は逃げたのか?」 「結果的にはそうなるな」 「そうか」 鞠家さんがやりきれないといった面持ちで深くため息をついた。 「至近距離で狙いを定め発砲すれば間違いなく俺の命を奪うことが出来たのにな。わざと外した」 「女、子供、無関係な人は撃たない………彼らしいな」 辛そうな表情で鞠家さんがぽつりと呟いた。 雪の帽子を被った安達太良の稜線に沈む太陽を鞠家さんはただ静かに見詰めていた。 『福島県警刑事部組織犯罪対策課・玉井頼巡査長が、銃を所持したまま逃亡しました。二本松市内で去年の12月に起きた2名が重軽傷を負った殺人未遂並び、一連の連続放火に関与した疑いで全国に指名手配されました』 夕方の情報番組で大々的に玉井さんのことが一斉に報じられていた。 「那和、少しは優しくできんのか?」 「慣れていなんだもの。諦めて」 四苦八苦しながら蜂谷さんの腕に包帯を巻く那和さん。 逃走の際玉井さんが発砲した2発の弾のうち1発は、蜂谷さんの右上腕を掠めていった。 病院へ行くまでの応急手当。 今から練習しておいて損はないと、お祖父ちゃんに言われ、那和さんがチャンレジすることになったという訳だ。

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