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番外編 護るべき大切なひと
「詳しいことはあとだ。蜂谷に………」
「卯月」
血塗れの腕で彼の手首を掴んだ。
「蜂谷は呼ばないでくれ。迷惑掛けたくない」
「そんなことを言ってる場合じゃないだろう」
「そうだタマ」
「播本………に、頼む。会わせてくれ……どうしても……話したいことが………あるんだ。頼む………」
息も絶え絶えに必死に懇願する玉井さん。
「分かったから、もう喋るな」
鞠家さんがお祖父ちゃんに至急戻って来るように連絡をしてくれている間、消毒液と包帯を持ってくるように、てきぱきと若い衆に指示を出して、中に玉井さんを運び込んだ。
「俺が憎くないのか?」
傷口を軽くぬるま湯で洗い流してから、消毒して包帯を巻いていたら玉井さんにそんなことを言われた。
「俺は真珠を唆し、お前を殺すように仕組んだ。憎くないのか?」
どう答えていいか思案に暮れていたら、また声を掛けられた。
これは神様が与えてくれた試練だ。
決して憎まず、みなに感謝して生きろ。お祖父ちゃんにそう言われたんだもの。
ううん、首を横に振った。
「人嫌いの地竜がお前に心底惚れ込んだ理由が何となく分かったような気がする。さすが、播本の孫、卯月の女房だ」
包帯を巻き終えると玉井さんは背凭れに掛けてあった上着に手を伸ばした。
「玉井さん、待って‼まだ、血が、完全に止まってない」
お願いだから今は動かないで。もう少しじっとしてて。
「播本に『ありとう』って・・・・孫のきみから伝えてくれないか?」
「玉井さん・・・・?」
意味がよく分からなくて首を傾げた。
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