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番外編 護るべき大切なひと

辺りが薄暗くなる頃、橘さんがようやく帰ってきた。 「優璃、会いたかった!」 尻尾を大きく振り柚原さんがムギューと抱き付こうとしたら、 「あとにして頂きませんか?」 「へ?」 まさかの塩対応に茫然としていた。 「遥琉、頼まれていたものです」 茶封筒を彼に差し出した。 「お、悪いな」 それを笑顔で受けとると、鞠家さんと紗智さんを呼んだ。 あれから二人はギクシャクしたまま。 顔を合わせようとしないし、言葉も挨拶程度しか交わしていない。寝るところも別々で、何だかよそよそしい。 「鞠家、明日から3日間、紗智と新婚旅行に行ってこい。新幹線の切符と旅館の予約券が入っている」 「何を言い出すかと思ったら………こんな大変な時期に、何を考えているんだ」 「こんな大変な時期、だからだ。一度絡んだ糸を解すのは並大抵のことじゃない。離婚を経験した俺が言っても説得力がないが、今ならまだ簡単に解すことが出来るんじゃないか?違うか?」 「遥琉、お前………」 渡された茶封筒を凝視(みつめ)た。 「いや、順番が違う。お前だって新婚旅行がまだなんだ。先になんか行ける訳ないだろう」 「子供達が大きくなって手が掛からなくなったら、未知とのんびり旅行をするつもりだ。紗智は俺にとって大事な息子だ。鞠家(お前)なら紗智を誰よりも幸せにしてくれると信じて嫁にやったんだ。こんなので別れて欲しくない」 「遥琉、すまない」 鞠家さんの声は震えていた。 深々と頭を下げると、紗智さんも一緒に頭を下げた。 「俺たちのことは心配しなくていいから。楽しんでこい」 ポンポンと励ますように鞠家さんの肩を叩くと、那和さんの所にゆっくりと移動した。

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