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番外編 バーバありがとう
「は~~る!!」
「げ、何でまたいるんだ。帰ったはずじゃあ………」
「あ?一太が帰ってくるまで待つとは言ったが、帰るとは一言も言ってないぞ」
紗智さんと那和さんが出掛けたあと、入れ違いに様子を見に来てくれたのは、信孝さんとナオさんだった。
ママの記憶が戻るように一人ずつ、ママのことを話してもらって、それをビデオに録画する。だから協力してください。
そう一太に頼まれたみたいで。
僕も彼も全然聞いていなかったら驚いた。
「ママとパパはここでおりこうさんにしてまってて」
一太は幼稚園から帰ってくると、着替えもせず信孝さんとナオさんの手をぐいぐい引っ張ってペンションへと連れて行ってしまった。
「テレビ電話だっけ?よく分からないが、それを使って心や千里や笹原。あと鷲崎や七海にも自分から、ママの記憶を取り戻すために手伝って欲しいと頼んだらしいよ。度会さんや紫さん。それに組の連中にも」
「全然知らなかった」
「だって未知や俺には内緒。三ヶ月早いけど母の日のプレゼントらしい。赤ちゃんが産まれたらママまたお世話で忙しいから、その前にどうしても渡したいって」
一太がそこまで僕を想ってくれていたなんて。
涙が出るくらい嬉しかった。
鼻をズズっと啜ると、心望と太惺が小さな手を懸命に伸ばし、ママ、泣かないでと言わんばかりに頬をそっと撫でてくれた。
「ありがとう」
二人ともニコニコと屈託ないのない愛くるしい笑顔を見せてくれた。
「しかしまぁ、なんでまた予定日と被るかな」
彼がそんなことをボヤいてため息をついた。
彩さんの初公判の日は5月20日。
見事に出産予定日と重なってしまった。
「それまでなんとしても茂原と炎竜の身柄を確保して貰わないとな」
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