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番外編 千里さんの涙とほんとうの想い

子供達を大急ぎで寝かし付けた彼が、橘さん、柚原さん、笹原さんらをリビングに集めた。 「しかしまぁ、先々代もよくやるな」 手紙の内容を彼から聞いた柚原さんがため息をついていた。 千里さんからの手紙には、先々代、五代目組長秦蒼甫さんが愛人宅で黒竜の襲撃に遭い意識不明の重体と書いてあった。サツは暴力団と上海ギャングの抗争がはじまると警戒し、この事件をあえて公にしなかった。 そう書いてあった。 「先々代は、未知のおじさんの兄だ。御年70才。今だ、バリバリの現役だ」 彼が僕にも分かるように紙に書いてくれた。 いまだ認知はしていないが、笹原の実父でもあると。 「その愛人ってのが、笹原が昔、ほんの数週間付き合っていた風俗嬢で、どういう経緯で先々代と知り合い、愛人《イロ》になったか、その辺りの詳細は不明だ。どうやらその愛人は黒竜が送り込んだスパイだったらしい。父親が誰か分からない一歳くらいの子供と産まれたばかりの赤ん坊を置いて姿を消した。千里は引き取り手のないその二人を手元に引き取ることにしたんだが、笹原が頑なに首を縦に振ろうとしない。だから、説得してくれと。それとその愛人の行方を探すのに協力して欲しいと。まぁ、かいつまんで言うとそういうことだ」 彼がチラッと笹原さんに目を遣ると、びくっと肩を震わせ小さくなっていた。

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