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番外編 遥琉さん、ありがとう
側で心地良さそうに寝息を立てている彼の横顔を見詰めながらそろそろと上体を起こした。
普段はとても忙しいのに、家のなかでも子供達の世話や遊び相手をしてくれたり、和江さんや惣一郎さんの手伝いをしたりと、あれこれと動き回ってくれる彼に、面と向かって(ありがとう)がなかなか言えずにいる。
「遥琉さん、ありがとう」
じっと穏やかな顔をみつめ、彼が眠っていることを確認すると、頬っぺたにちゅっと軽く口付けた。
ぽっと熱くなった頬を宥めるように息をつくと、冬の儚げな陽の光が射し込むまだ薄暗い寝室を眺めた。
そのとき、ブルブルとスマホが振動して。
手を伸ばし、画面を覗き込むと、鞠家さんからのメールだった。
『未知や遥琉のお陰で紗智と仲直りが出来た。感謝する。紗智が、一太とハルちゃんにお土産何がいいかなって悩んでいた。もし、欲しいものがあれば連絡をくれ。夜にはそっちに戻る』
(仲直りしたのなら良かった。お土産はいらないから、事故に気を付けて帰ってきてください。鞠家さん、紗智さんを宜しくお願いします)
文字を打ち込んでいたら、
「こそこそ何をしてるんだ?」
少し掠れた声がしたかと思えば、背後からいきなり抱き締められた。
「は、遥琉さん‼」
驚きのあまり声が上擦った。
「俺に内緒事か?」
「違うの。あのね、鞠家さんからメールをもらって…………ん………っ………っ」
有無を言わせないとばかりに、唇に唇が重なってきた。
大好きな彼に抱き締められ、口付けられていると思えばそれだけで身体から力が抜けていった。
「まさか、未知の方からしてくれるとは思わなかったから、一気に目が覚めた」
ニヤリと愉しげな眼差しで瞳を覗き込まれた。
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