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番外編 幸せの色
「姐さん」
弓削さん?でいいのかな?
緊張のあまりみんな顔が同じようにしか見えなくて。もし間違っていたら素直に謝ろう。
「えっと、弓削・・・・さんで、間違いないですか?」
おっかなびっくり言葉を返した。
「あぁ俺が弓削だ。度会さん達が事務所で待っている」
吉崎さんと一緒に鋭い目付きで辺りを警戒しながら、中へと案内してくれた。
もしかしたら茂原は炎竜とは別のところにいるかも知れない。
蜂谷さんがそんなことを言っていた。伊澤から聞いた話しだがと前置きをした上で。茂原さんの写真をもった人相の悪い人達があちこちの温泉地を探して歩いているようだった。
橘さんと紗智さんに子守りを頼んで、事務所の一番奥の部屋をおっかなびっくりそぉーと覗き込んだ。
あの人が度会さんなのかな?
ソファーに深く腰を下ろし、不機嫌そうに腕を前で組んで、厳しい表情を浮かべ、蜂谷さんをジロリと睨み付けている男性がいた。
年はお祖父ちゃんくらいかな?
着流しを粋に着こなしていた。
「会長、姐さんをお連れしました」
弓削さんが声を掛けると、
「おっ、未知、久し振り」
それまで近寄り難いオーラを醸し出していた男性の表情が一気に緩んだ。
「えっと・・・・その・・・・・度会さん、ですか?」
「あぁそうだ。儂も橘と同じで未知の親代わりだ。それにしても元気そうで良かった」
度会さんの視線がふっくらと膨らむおなかへと向けられた。
「体調はどうだ?悪阻だっけ?まだあるのか?」
「はい、少しだけ」
「そうか。体調が悪いのに無理をさせてすまなかったな。遥琉の留守中万が一のことがあったら大変だろう。それに、世話になっている蜂谷の両親を危ない目に遭わせる訳にはいかないだろう。それでは恩を仇で返すようになる。だから、未知と子供達をこっちに寄越すように遥琉と橘に頼んだんだ」
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