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番外編 幸せの色

「あっ、ごめんなさい」 廊下に出たときに誰かにぶつかって、ぺこりと頭を下げると、オホホと上品な笑いが返ってきた。 恐る恐る顔を上げると、 「元気そうで良かったわ」 安堵のため息をつき、にこやかに微笑む初老の着物姿の女性と目が合った。 「えっと・・・・・・」 その女性に見覚えがあった。 名前が喉の辺りまで出かかっているのに、なかなか思い出すことが出来なかった。 「散々お世話になっていたのに、何も思い出すことが出来ません。ごめんなさい、薄情者で」 女性の顔をまともに見る事が出来なくて。目をそらし肩を落とした。 「それじゃあね、ヒントを出すわよ。ヒントその1、色の漢字一文字、ヒント2、ご飯にまぜてよくお握りにするもの。ヒント3、一太が好きでおやつによく橘に握ってもらっていた」 一太が好きなものっていったら・・・・パンケーキに、アップルパイ、あとそうだ!遥香と一緒でお握りが大好きなんだ。幼稚園からただいまって帰ってきて、真っ直ぐに向かうところは和江さんや惣一郎さんがいる厨房。 ヒントを手がかりに一生懸命考えた。 「もしかして・・・・ゆかり・・・・さん?」 間違っていたらどうしようかと思ったけど、それしか頭に浮かばなかった。 「そうあたり‼紫と書いてゆかりと呼ぶのよ。私は度会の家内よ。ありがとう未知さん、思い出してくれて」 紫さんが嬉しそうに顔を緩ませた。 「みんなでおやつにしましょう。一太とハルちゃんが首を長くして待ってるわよ」 恭しく頭を下げる若い衆らに、ご苦労様と笑顔で声を掛けて、ゆっくりと歩き出した。 姐さんはね組員(みんな)のお母さんなのよ。 アゴで使わず、ちゃんと名前で呼んであげて。そうすれば、組員(みんな)黙って未知さんに付いてきてくれるから。 あっ、そうだ。 紫さんにそう言われたんだ。 やっと思い出すことが出来た。 紫は僕にとって幸せの色。 大好きな人の色。

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