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番外編 頑なな心をとかすのは
『ここだけの話し、彼ね、たいくんに跡目を継がせる気でいるみたい。直矢君はヤクザには向いてない。このままカタギとして遥と普通の生活をしてほしい、そう願っているみたい。だから、あと20年。組を守るために、まず自分が変わらなきゃいけないって』
「そうなんですね」
橘さんが感慨深そうに言葉を返した。
「黒竜にはくれぐれも気を付けてくださいね。菱沼組の幹部をすぐに応援に向かわせます。七海さん、命はたった一つしかなんですよ。無理だけは絶対にしないで下さい。危険だと感じたらすぐに逃げてください」
『ありがとう橘、彼にも伝えておく』
ままたん、まだ?
遥香が、ツンツンと橘さんの裾を引っ張った。
「もう終わりましたよ」
遥香にスマホを手渡すと、
「鞠家さん、すみませんが、根岸さんとすぐに仙台に向かって頂けますか?」
「分かった。でもここの警備が手薄にならないか?」
「大丈夫です。度会さんや柚原さん、それに鳥飼さんに黄さん、吉崎さんがいます」
一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべる紗智さん。でも……
「高行さん、待ってるから。ちゃんと頑張ってきて」
元警察官だっただけに鞠家さんの顔は広い。だから仙台にも知り合いの警察官がいてもおかしくない。
紗智さんは菱沼組の幹部の妻として、夫を影で支える覚悟を決めたのだと思う。
「高行さんは鷲崎さんと七海さんを守る。俺はマーを守る。ほら、早く行って。時間がないよ」
だからわざと明るく振る舞い、笑顔で鞠家さんを送り出した。
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