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番外編頑なな心をとかすのは

「未知こっちだ」 扉を開けると度会さんが若い衆を従え待っていてくれた。 鳥飼さんや黄さんが辺りを警戒するなか、子供たちと黒いワンボックスカーに乗り込むと、助手席に吉崎さんが座っていた。 「蜂谷から連絡があり、少し遠回りしてからこっちに来るようにと。なので、遠回りして、途中で別のレンタカーに乗り換えてから向かいます」 バックミラー越しに険しい表情の吉崎さんと目が合った。 K市から二本松へは国道4号線を北上すれば一時間も掛からない距離だ。警察やどこに潜んでいるか分からない黒竜に見付からないように、あえて真っ直ぐ向かわず猪苗代から遠回りして向かうことになった。国内で三番目の面積を誇る猪苗代湖。 悠然と広がる碧色の水面。 荒々しく岸に打ち寄せる白い波。 どこまでも続く青く澄んだ空。 雪で山頂付近が真っ白になった磐梯山ーー 湖から望む景色はいつ見ても圧倒される。 観光シーズンではないから湖の畔にある志田浜は閑散としていた。 駐車場で待つこと5分あまり。県外ナンバーの白いワンボックスカーが駐車場に入ってきてすこし離れたところで静かに停車した。 「姐さん、迎えが来ました」 「吉崎さんは?」 「私の役目は姐さんを彼に渡すまで守ること。すぐに事務所に戻ります」 吉崎さんとそんな話しをしていたら、柚原さんが先に車を下り白いワンボックスカーに近付いていった。 暫くしてプルプルと橘さんのスマホが鳴り出した。

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