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番外編 頑なな心をとかすのは

「いたいのいたいのとんでいけ」 「ハルちゃん、ありがとう」 「もういたくない?」 「あぁ、大丈夫だよ」 案内されたリビングから遥香と七海さんのそんなやり取りが聞こえてきて、そぉーと覗き込んだ。 ソファーに七海さんが座っていて、一太と遥香が両隣にちょっこんと座っていて何やら楽しそうに話しをしていた。 時折右腕を気にする素振りを見せる七海さんに、橘さんがハッと何かに気付いて鷲崎さんを見上げた。 「偶然居合わせた幼い兄弟に黒竜《ヘイノン》の炎竜は容赦なく銃を向けた。七海はその兄弟を守ろうとしてして撃たれた。かすり傷で済んだのは伊澤が身を挺して七海とその兄弟を守ったからだ」 「そんな………」 橘さんの声は怒りに震えていた。 「伊澤も鞠家も根岸も防弾チョッキを着用していたから無事だ。フラッシュバックを起こしたんだろう。錯乱状態に陥った茂原は自分がいなければ良かった、そう言って隠し持っていたナイフで自らの脇腹を刺し自殺を図った。今は度会の知り合いの医者に匿ってもらっているから大丈夫だ」 「昔のことを………封印した忌まわしい記憶を思い出してしまったんですね」 「あぁ。その幼い兄弟が昔の自分と炎竜に重なり、銃口を向ける炎竜が真沙哉の姿に重なったんだろうよ。その瞬間すべてを思い出した」 「そうですか」 橘さんの表情が強張っていった。 紗智さんは鞠家さんが無事と聞いて、ほっとしたのか涙ぐんでいた。

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