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番外編 頑な心をほぐすのは

「サツは昇龍会を壊滅させるため、手始めに鷲崎組と菱沼組を潰しに掛かってるんだ」 鷲崎さんが太惺を抱っこしてお風呂から上がってきた。腰にタオルを巻いただけの格好で。太惺は裸でキャーキャーと黄色い歓声をあげて鷲崎さんの頬っぺたをペタペタと両手で触っていた。 「………」 七海さんは一瞬固まったのち顔を真っ赤にしていた。 「鷲崎さん、未知さんも紗智さんも七海さんも目のやり場に困ってますよ」 橘さんがやれやれとため息をつきながらタオルを手に二人のあとを追い掛けてきた。 「たいくんおいで」 橘さんがニッコリと微笑んで太惺に声を掛けるも、ブンブンと首を横に振り鷲崎さんの太い首にしがみついた。 「うちのカミさん、怖いんだ。頼むから離れてくれ」 「俺、そんなに怖くないよ」 七海さんが笑いながらすっと立ち上がった。 「一太くんほっといていいの?」 「あ!思い出した!」 七海さんに太惺を渡すと慌ててお風呂に戻って行った。 「本当に面白いおじちゃんだね」 鷲崎さんに置いていかれ急にぐずりはじめた太惺を縦にだっこして、ゆっくりゆらしながら、背中をトントンと優しく叩いてあやしてくれた。 落ち着くのを待って橘さんがタオルでくるんでくれた。 「何を話していたか俺達も忘れちゃったね」 七海さんが苦笑いをしていた。 昇龍会を壊滅するなら黒竜《ヘイノン》は手段を選ばない。 幼い子供にも容赦なく銃口を向け、惚れた男にも躊躇することなく銃を突き付ける。 信じていた人に裏切られた茂原さんのことを思うとやるせがなかった。 悩んだ末、鞠家さんにメールを送ることにした。

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