885 / 3637

番外編 二人の母

「フェイクだよ。遥琉の命が狙われているのは最初から分かっている。だから、影武者を立てた。遥琉と那和は無事だ。もう少しで着くはずだ」 声は聞こえるのに本人の姿が見えなくて、太惺と心望は立ち止まると不思議そうに首を傾げた。 「じゃあ追突された車に乗っていたのは・・・・」 「愛妻家で心配性の地竜《ディノン》は黄の他に、遥琉によく似た、腕ぷっしの立つ男を影武者としてひそかに度会のもとに寄越していたみたいだ。そうだろう黄?」 いつの間にかドアの前に立っていた黄さんと鳥飼さんに声を掛けた。 「 变色龙 ( ビエンソーロン )」 黄さんがボソッと呟いた。 それを耳にした紗智さんがハッとしたように顔を上げた。 「紗智さん…………?」 橘さんが心配そうに顔を覗き込んだ。 「俺、噂だけど聞いたことがある。地竜には手練れの刺客二人いる。一人は黄。もう一人は变色龙。意味はカメレオン。ターゲットを始末したあと、顔、声、全部真似て、その人にすり代わる。本当の顔を誰も知らないから恐れられていた」 「また物騒な野郎を寄越しやがって………何を考えているんだお前の主は」 「地竜は妻を守るためなら命さえ惜しくない。一番信用している自分の部下を、しかも二人も、未知を守るためにわざわざ危険を犯してまでも日本に寄越した。未知に万が一のことがあれば、命に代えても守れ、そう指示されたらしい」 鷲崎さんに問い詰められた黄の代わりに鳥飼さんが答えた。

ともだちにシェアしよう!