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番外編 生きてさえいれば

普段はシャツにスラックス姿が多い彼。黒いニットの帽子を目深に被りセーターにジーンズという初めて見る姿に目をぱちぱちさせていると、 「そんなに驚く事でもあるまい」 困ったように苦笑いをされた。 「可愛いし、恥ずかしくないから」 紗智さんに手をむんずと捕まれた那和さんが恥ずかしそうに俯きながら後ろから姿を見せた。 淡いピンク色のセーターに短めのスカートを着て、メイクもネイルもバッチリだった。さすが千里さん。完璧だ。 一太と遥香が見間違えるのも無理ない。 恥ずかしそうにセーターの裾をギュッと握りしめてモジモジする那和さん。その仕草がまた可愛くて………真沙哉さんにも見せてあげたいなと思った。 そのとき、あれ?何気に左手の薬指に目がいった。 「那和さんそれ……」 「うん」 はにかみむような笑顔で手を上にかざし見せてくれた。 「バーバと千里と弁護士さんに立ち会ってもらって彼と指輪を交換した」 「真沙哉のヤツ、俺もダーリンって呼んでほしい。そう真顔で………」 「バーバ、それ以上は駄目。禁句」 那和さんが顔を真っ赤にして慌てはじめた。 「何を今更恥ずかしがってる」 「だって……」 視線が宙をさ迷っていた。 「新婚なんだ。バカップルでいいじゃないか。息子が幸せだと嫁に出して良かった、バーバもマーも安心する。な、那和」 「うん、ありがとうバーバ」 「おぅ」 目尻を下げて柔らかな笑みを浮かべる彼。 笑った顔が一番好き。 うっとりとして見惚れていたら、黄さんが何かの気配を感じたのか鬼のような形相で窓に駆け寄り外を睨み付けた。

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