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番外編 恋う(おもう)

「○×□○×」 普段全く感情を表に示さない黄(ファン)さん。気色ばみ詰め寄られ、早口で捲し立てられた。 言葉が通じないから何を話しているのか全く分からなかった。 「ちょっと」 いち早く気が付いた那和さんが助けに来てくれた。 「黄、止めろ」 鳥飼さんが慌てて駆け寄ってきて、黄さんの手首を少し乱暴に掴んだ。 「△×○×○◇‼」 目を吊り上げて鳥飼さんを睨み付ける黄さん。 「那和、悪いが通訳を頼む」 「てかさぁー、これって痴話喧嘩じゃないの?マー悪くないじゃん」 那和さんが呆れたように溜め息をついた。 「主の所に帰れって、それってつまり、邪魔だってことでしょう」 「そんな意味で言ったんじゃない。地竜を助けに中国に戻れ。そう言っただけだ」 「黄はね、これからもずっと鳥飼の側にいたい、そう言ってる」 「言葉が通じないことをいいことに、適当なことを言うな」 鳥飼さんが声を荒げた。 「そうじゃなかったら、我想你(ウォシャンニー)って言わないよ。普通は」 「何で分かったんだ」 ハッとし息をのむ鳥飼さん。 「僕じゃないよ。紗智だよ。彼は、唇の動きを読めるから」 「そうだったな。すっかり忘れていた」 自嘲すると掴んでいた手を静かにおろした。 「ここが好きになった。二度と中国には帰らない。そうボスに告げた」 那和さんが黄さんの言葉を訳してくれた。 「鳥(ニィァォ)の側にいたい。いろいろ教えてほしい。だから、邪魔にしないでくれ」 「那和、もう訳しなくていい」 恥ずかしいのか顔を真っ赤にする鳥飼さん。額からは汗が噴き出していた。

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