892 / 3637
番外編 恋う(おもう)
「○×□○×」
普段全く感情を表に示さない黄(ファン)さん。気色ばみ詰め寄られ、早口で捲し立てられた。
言葉が通じないから何を話しているのか全く分からなかった。
「ちょっと」
いち早く気が付いた那和さんが助けに来てくれた。
「黄、止めろ」
鳥飼さんが慌てて駆け寄ってきて、黄さんの手首を少し乱暴に掴んだ。
「△×○×○◇‼」
目を吊り上げて鳥飼さんを睨み付ける黄さん。
「那和、悪いが通訳を頼む」
「てかさぁー、これって痴話喧嘩じゃないの?マー悪くないじゃん」
那和さんが呆れたように溜め息をついた。
「主の所に帰れって、それってつまり、邪魔だってことでしょう」
「そんな意味で言ったんじゃない。地竜を助けに中国に戻れ。そう言っただけだ」
「黄はね、これからもずっと鳥飼の側にいたい、そう言ってる」
「言葉が通じないことをいいことに、適当なことを言うな」
鳥飼さんが声を荒げた。
「そうじゃなかったら、我想你(ウォシャンニー)って言わないよ。普通は」
「何で分かったんだ」
ハッとし息をのむ鳥飼さん。
「僕じゃないよ。紗智だよ。彼は、唇の動きを読めるから」
「そうだったな。すっかり忘れていた」
自嘲すると掴んでいた手を静かにおろした。
「ここが好きになった。二度と中国には帰らない。そうボスに告げた」
那和さんが黄さんの言葉を訳してくれた。
「鳥(ニィァォ)の側にいたい。いろいろ教えてほしい。だから、邪魔にしないでくれ」
「那和、もう訳しなくていい」
恥ずかしいのか顔を真っ赤にする鳥飼さん。額からは汗が噴き出していた。
ともだちにシェアしよう!