903 / 3254

番外編 心望の初節句

「さっき撃たれたって………」 「たいしたことない」 一太と遥香に手を振られ、笑顔で手を振ると、 「なぁ未知」 声のトーンが一気に落ちた。 「何で人は好きになってはいけない人を好きになるのだろう。恋は甘いだけじゃない。苦しい恋だってある。決して報われない恋もあれば、破滅に向かう恋もある。それでも人は恋に身を焦がす。人を愛さずにはいられない」 首を傾げながら聞いていたら、何気に目が合った。 「未知には少し難しかったな。ごめんな」 クスリと笑われてしまった。 「茂原は生きるために人を殺すしかなかった。自己防衛だったとしても許されることじゃない。炎竜は茂原を守るため、やってもいない罪を自ら背負った。両想いなのに、お互い意地っ張りで不器用だから、困ったものだな」 「地竜さん、茂原さんが人を殺したって………嘘………」 にわかには信じられなくて声が震えた。 「どんなに上手い嘘を付いても、黙っていてもいずれは分かることだ。そうだろう未知?炎竜は茂原を守るために一芝居を打った。紫竜の玩具として弄ばれる前に、茂原を一番安全な、唯一信頼できるマル暴のデカに返したんだよ」 「そんな……」 地竜さんから聞かされた真実はとても哀しいものだった。辛くて聞いていられなかった。 「地竜、終わって」 「頼むから」 太惺と心望をそれぞれ抱っこした紗智さんと那和さんが心配そうに話に割り込んできた。

ともだちにシェアしよう!