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番外編 俺の、愛しい人

「那和さん、紗智さん、何て?」 「風が泣いている。不吉な前触れだって」 「風が………泣いている?」 意味が分からなくて、首を傾げ耳を済ませたけれど僕には何も聞こえてこなかった。 「とりあえず二人を家の中に入れよう」 紗智さんが橘さんを呼ぶとタオルを手に飛んできてくれた。 「風が泣いている、ですか?はじめて聞きました」 橘さんも不思議そうに首を傾げていた。 「もしかしたら、天気が急変する前触れかも知れませんね。遥琉、子供達を中に」 「こんだけ天気がいいのにか」 不思議そうに空を見上げると、一太と遥香も彼と一緒に空を見上げた。 「山の天気は変わりやすいっていうからな、家の中で遊ぶか」 「うん‼」 近所の子供たちにも声を掛けてプールから上がると、サンダルに履き替えてみんなでペンションに移動しはじめた。 「誰だてめぇは」 駐車場の方が急に騒がしくなった。 日本語と中国語の怒声が飛び交っていた。 「橘、鍵閉めろ‼窓もだ‼。一太、みんなせーのだ、走れ‼」 彼の鋭い声が辺りに響き渡った。 「未知さんは動かないでください」 橘さんが那和さんと手分けしてログハウスの窓という窓の鍵を閉め、カーテンをさぁーと引いた。 「一太くんとハルちゃんには柚原さんと惣一郎が付いているので大丈夫ですよ」 ペンションは目と鼻の距離なのに、おなかが重くて、すぐには飛んでいけない自分が情けなかった。

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