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番外編 俺の、愛しい人

駐車場に向かおうとした彼をウー(カメレオンさん)さんとフー(黄さん)さんが止めた。 フーさんは身振り手振りで若い衆に指示を飛ばし、ウーさんは彼の手首を掴むと、ペンションの出入口に引っ張って行き、強引に中に押し込みドアをバタンと閉めた。 到底太刀打ち出来る相手じゃない。 オヤジは子供達を守ってくれ。 何を言っているかまで分からなかったけど、そう言っているように僕には感じた。 やがてフーらの前に、フラフラとよたつきながら千鳥足で男性が姿を現した。 男性の回りを見たけれど、なぜか護衛の者は誰もいなかった。 焦点の定まらない目であちこちキョロキョロと見回し、誰かを探しているようだった。 その手には赤いラベルが貼られた瓶が握り締められていた。 「おそらくあれは老酒(らおちゅう)です」 「老酒って?」 「中国(むこう)のお酒です。どうやら乱酔のあげく、腕力沙汰に及んだようです」 橘さんが鋭い眼差しを外に向けた。 「俺の、愛しい人…………」 口唇術で紗智さんが男性が話している内容を伝えてくれた。 「もしかして彼が茂原さんの?」 「おそらくそうです」 「彼が炎竜(えんりゅう)………さんなんだ。あれ違うよね?何て読むんだっけ?」 紗智さんとそれ程年が変わらない。 どこにでもいる普通の若者にしか見えなかったら驚き過ぎて、名前の読み方を忘れてしまった。

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