921 / 3639
番外編 俺の、愛おしい人
人が殺されるところを子供たちに見せたくなくて、咄嗟に目を片方の手でそれぞれ覆った。
「少しの間だけ我慢してね」
ヤクザを生業にする家に産まれなければ、こんな惨たらしい光景を目の当たりにすることもなかっただろうに。
「ごめんね太惺、心望」
鼻を啜りながら二人に謝った。
パンパンと乾いた音が二回、響いたのはそれから少し経ったあとだった。
そのとき、一瞬だけ意識が飛んで、次の瞬間にはなぜか真っ白な部屋にいた。空耳かも知れないけれど、どこからか可愛らしい小さな女の子の声が聞こえてきた。
『ねぇねぇ』
ペタペタと小さなお手手が頬に触れてきた。温かくてすごく懐かしい匂いがした。
少し甘くて花の香り。
どっかで嗅いだことがある。
あぁ、そうだ。思い出した。
彩さんが好んで付けていた練り香水の匂いだ。
『ごめんねあたしのほう。ちゃんとうまれてくればよかったのに。だから、もうあやまらないで』
にっこりと微笑んで、おなかを優しく撫で撫でしてくれた。
「ーーさん、・・・・・・未知さん」
肩を強く揺さぶられてはっとして我に返った。
「たちばな・・・・さん?さち・・・・さん?なな・・・・・さん?」
心配そうに覗き込む3人と目が合った。
いつの間にかベッドで寝ていた。
「良かった」
大粒の涙を流す紗智さんと那和さんにぎゅっと抱き締められた。
「良かった意識が戻って」
「このまま目が覚めないんじゃないかって思ったんだよ」
「あれ?一太は?遥香は?太惺と心望は?」
キョロキョロと辺りを見回した。
「私の背中と、紗智さんの背中ですやすやと眠ってますよ。一太くんとハルちゃんは遥琉と一緒なので大丈夫です」
抱っこ紐で二人ともおんぶされ、お手手をぎゅっと握り締め同じ格好で熟睡していた。
顔を引っ掻かないようにミトンを手に被せてもらっていた。
ともだちにシェアしよう!